ショスタコーヴィチ 交響曲第5番

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

14'41, 04'53, 13'19, 10'53

[Russian Disc]

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

15'08, 05'03, 12'46, 10'45 [1965年11月24日]

[DREAM LIFE]

★★

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

13'56, 04'49, 11'57, 10'00

[Russian Disc]

★★

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

14'45, 04'55, 12'53, 10'24 [1973年5月3日]

[ALTUS]

★★★

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

14'50, 05'04, 13'04, 11'07 [1973年5月26日]

[ALTUS]

★★★

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

14'41, 05'06, 12'33, 10'26 [1978年6月]

[melodiya/Victor/ALTUS]

★★★

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

14'17, 04'57, 12'09, 10'15 [1982年11月18日]

[SCORA]

★★

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

15'04, 05'13, 13'12, 10'49 [1984年4月4日]

[melodiya/Victor]

★★★

ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ/ロンドン交響楽団

[2004年]

[hitoderan's opinion]
 ロストロポーヴィチ3度目のショスタコーヴィチ5番は、ロンドンシンフォニー(LSO)自主製作シリーズの一枚です。この自主製作シリーズは熱演揃いで録音も良いので、ついつい買ってしまいます。このシリーズを聴くまでは個人的にLSOへの評価は芳しくなかったのですが、この一連のCDで一変することになりました。
 さてこの演奏ですが、手元にある82年の録音(ワシントン・ナショナル交響楽団)と基本路線は同じです。音楽が自由自在に前後し拡大縮小する嵐のような演奏は、22年経ったこのCDでも健在です。82年のものは、熱いながらもともすれば危うさを感じさせたのに対し、今回の録音はオーケストラの力が一枚上手であり、よりロストロポーヴィチの真意を感じることができるものだと言えます(特に82年はホルンがやばかった)。そしてLSOと指揮者との一体感は、両者の関係が良好なことを想像させます。
1楽章。ホルン吹きの視点としては、序盤を過ぎた頃の超低域メロディが注目されますが、これが素晴らしい。タワレコの視聴で聴いて購入を決めたのですが、このために買ったといっても過言ではありません。超鳴ってます。ここが鳴らないとショス5ではない、という私にとっては、この部分の演奏はかなり理想に近いものです。ちょっと遅れる箇所がありますが、許してやってください(ここは本当に難しい)。2楽章冒頭のチェロのメロディは各音長目です。私は短いのが好みなのですが、いかがでしょうか。3楽章はオケと指揮者の一体感が特に優れています。前にも触れましたが、ショスタコーヴィチの作曲当時の状況は悲惨なものであり、親交があったロストロポーヴィチは故国の先輩であるショスタコーヴィチに敬愛と共感を覚えていたといわれています*1。そして、そういった敬愛や共感は、この静かな3楽章に最も現れているような気がします。「ついでに聴く」という現在の音楽のあり方とは対極にある音楽のあり方に思われます。4楽章は普通のテンポから始まり、だんだんとスピードを上げていくオーソドックスなスタイルですが、各所がっちりしているのが特に安定感を感じさせる原因だと思います。また、緩除部に入る直前の盛り上がりは各楽器の絶叫とリタルダンドが相俟って、聴き応え十分です。コーダ(終結部)は適度なスローペースと全楽器の気合いに満ちた大音響。トランペットが変態的なボリュームで吹き散らすので好みが分かれるところではありますが、決してきたないわけではありません。私は結構好きです。
 いやしかしそれにしても、全体を貫くダイナミズムはとても77歳の音楽とは思えません。ショス5のマイ・ランクにおいてかなり上位に位置するCDです。さあ、ロストロの歌を聴こう。
*1:ロストロポーヴィチは1974年、西側に亡命した際、ショスタコーヴィチのオペラ「ムツェンスク郡のマクベス婦人」(ソビエトに大批判された、例のオペラ)を録音するという約束を果たしています。

[LSO]

ルドルフ・バルシャイ/ケルン放送交響楽団(WDR交響楽団)

15'30, 05'32, 13'18, 11'30 [1995,1996年]

[Brilliant Classics ]

★★★

パーヴォ・ベルグルンド/ボーンマス交響楽団

17'36, 05'33, 15'53, 10'54

[EMI]

★★★

セミヨン・ビシュコフ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

[1985年]

 ムラヴィンスキーなどの演奏を聴いても、ショスタコーヴィチがマーラーから学んだものを感じ取ることができない。しかし、ビシュコフがショスタコーヴィチの5番を指揮したものを聴いてみて、ようやくそれを感じ取ることができた。たしか、吉田秀和はこんなことを書いていたのではなかったかしら。

 なんというか、僕もこれと似たようなことを思っていたので、吉田の文章を読み妙に納得したというか、ストンと胸のつかえが取れた記憶がある。
 東と西。社会体制の差異が、互いを許容しないイデオロギーとして地球上を席捲していた時代。その時代に主要なキャリアを積んだ指揮者の演奏とは、一線を画している。バーンスタインもムラヴィンスキーも根は同じ。

★★★


[hitoderan's opinion]
 セミヨン・ビシュコフは1952年生まれで、同じくロシア生まれのゲルギエフより1つ年上になります。ゲルギエフと比べて大分遅れをとった感もありますが、個人的にはすごく好きな指揮者です。まず、テンポ運びがいい。フレーズとフレーズの「間」に何ともいえない想念のようなものが漂うのは、ビシュコフ節と言ってもいいのではないかと思います。時折思い切ったリタルダンドを入れたりするところも面白い。音のバランス感覚や音楽運びの自然さについてみても、今世紀の巨匠候補として実力十分です。
 このCDについても以上のような特質がよく出ており、特に3、4楽章が白眉です。3楽章はベルリン・フィルという超一流オケと見事に一体化しており、ビシュコフの美学を純度高く感じることができます。ゆっくり丁寧に歌い上げ、盛り上げるところはしっかり盛り上げてくれます。4楽章ではロシア系指揮者にありがちな爆演から決別しつつも勢いは殺さずに、ベルリン・フィルの強靭な響きを出しきっています。とても33歳の指揮者とは思えません。対して朝比奈隆の若い頃の演奏ときたら、それはそれは・・・(以下自粛^^;)。
 ただまあ難点がないわけではありません。ひとつは、1楽章におけるオケの集中力がいまひとつで、ホルンの鳴りが悪かったり、縦がかみ合わないところがいくつかあったりということ。もうひとつは、2楽章が何とも煮え切らないこと。ちょっと柔らかすぎるんじゃないかなぁ、と。4楽章もティンパニが弱かったりトロンボーンの裏拍のリズムが悪かったり。後者について推測をお許し頂けるなら、「裏拍を待ちすぎるな」なぁんて下手に指示を出して奏者のプライド(例:そのくらい俺だって分かってるよ!)にぶつかってしまったのではないか。それで、トロンボーンだけ不自然に裏拍を前に出す演奏をされてしまったのでは・・・?まあ、完全な推測なのですが。
 実を言うと、私は今回CDを聴き返すまでこの演奏がベストだと思っていたのですが、数年振りに聴いてみると粗も見えるものですね。一言で言えば、指揮者も私も「あのころは若かった」ということでしょうか。この録音から20年を経た今、もう一回この曲をやってほしい。必ず名演になるでしょう。このCDについても、3・4楽章は必聴と言えます。

[PHILIPS]

アレクサンドル・ドミトリエフ/レニングラード交響楽団

14'21, 05'15, 13'58, 11'00 [1990年]

[LINN RECORDS]

★★

アレクサンドル・ドミトリエフ/サンクト・ペテルブルグ交響楽団

13'20, 04'55, 13'17, 10'00 [1994年]

[MANCHESTER]

★★★

キリル・コンドラシン/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

13'41, 05'20, 12'13, 10'52 [1968年]

[melodiya]

★★

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ソヴィエト国立文化省交響楽団

15'21, 05'25, 14'10, 11'03 [1984年]

[melodiya/Victor]

★★

エフゲニー・スヴェトラーノフ/ソヴィエト国立交響楽団

16'31, 05'10, 14'46, 10'14 [1977年]

[Venezia]

★★★

エフゲニー・スヴェトラーノフ/ソヴィエト国立交響楽団

17'13, 05'48, 13'24, 11'26 [1983年11月20日]

[(海賊盤)]

エフゲニー・スヴェトラーノフ/ソヴィエト国立交響楽団(ロシア国立交響楽団)

16'11, 05'39, 13'52, 10'19 [1992年]

[CANYON]

★★★

マルク・エルムレル/ボリショイ劇場管弦楽団

15'39, 05'04, 13'57, 10'27 [1990年]

[A&Eテイチク]

カレル・アンチェル/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

[1961年]

[hitoderan's opinion]
 ショスタコーヴィチの交響曲は15曲もありますが、この5番は一番分かりやすいということで広く人気のある曲です。初演は1937年11月21日、67年前のちょうど今頃でした。この曲はショスタコーヴィチが当時社会主義体制から批判を受けていたことに対する回答であるということです。解釈を巡って様々な争いがありますが、私個人としては、終楽章ラストはやはり強制された歓喜であるが、その「強制された歓喜」はソ連当局を皮肉る以上のものではない、と考えます。つまりこの曲は、「苦悩から歓喜へ」という当局の阿呆にも分かりやすい図式を用いる、いわば妥協の産物ではある。しかし、その中でもショスタコーヴィチは自己の持てる力を最大限注ぎ、この交響曲を最高の名曲に仕立て上げた、 ということです。よって、終楽章最後の行進はそこまでシニカルに考えて聴く必要は無く、音の響きから伝わってくる感情に身を任せれば、自ずと自然な解釈が生まれてくるのではないでしょうか。何と輝かしい和音の響き!何と重い打楽器の一撃!これほど素晴らしいカタルシスを生むラストもなかなかありません。

 今日の名言:「考えるな、感じるんだ」(ブルース・リー)

 cf.このように考察するならば、この曲に「革命」という副題を付けイメージを与えるのは不適当ではないかと思います(この副題は日本だけだし)。

 さて、アンチェルのショス5は若干マイナーではありますが、指揮者の考察がよく伝わってくるという点では良演と言えます。ただ、オケがちょっと弱い感じがします。ところどころ音や音程は外れていますし、4楽章などは明らかに指揮者の意図を体現しきれていないので、潔癖の気のある人は聴かないほうがいいでしょう。4楽章ラストが非常に早いということも、私にとっては大きなマイナスです。しかし、1楽章の繊細な音の運びや4楽章の真面目な音作りは十分楽しめます。「その演奏のいいところを感じるんだ」という、寛大さの先にある音楽の豊かな楽しみもあっていいと考えます。<補足>因みにマイベストはビシュコフ/ベルリン・フィルです。

 カレル・アンチェル(wikipedia)はナチスに家族全員をアウシュビッツで失ったり、実質的ソ連支配下のチェコを嫌忌してほっぽらかしたクーベリックの後任としてチェコフィルを再建したり、結局自身も「プラハの春」によってアメリカに亡命する羽目に、という苦労の人です。1枚のCDの裏にも様々なドラマがあるんだなぁと、想像を巡らせます。

[SUPRAPHON/コロムビア]