マーラー 交響曲第10番

至高の未完成交響曲


 マーラーの最後にして未完の交響曲。
 5楽章中、第1・2楽章は総譜の草稿があったものの、それ以外の楽章については不確定な箇所が多い状態であった。しかし、音楽としては一応最初から最後まで繋がった形で残されており、マーラーの死後、これを演奏可能にしようと試みる者が現れた。中でもイギリスの音楽学者デリック・クックが謙虚な姿勢で補筆版を完成させ、最大の成功をおさめている。
かくいう私も、クック版がもっとも優れているように思う一人である。

 録音は少なくないが、年代の古いものの多くはマーラーによる総譜がある第一楽章のみとなっている。バーンスタインやテンシュテットも優れた演奏を複数残しており、いずれも聴く価値がある。
補筆版はクック版のほか、レモ・マゼッティ・ジュニア版、ジョー・ホイーラー版、カーペンター版、指揮者ルドルフ・バルシャイの補筆によるものもある。

ルドルフ・バルシャイ/ユンゲ=ドイチェ管弦楽団

25'53,11'41,04'15,11'02,20'59 [2001年]

バルシャイ版。
 クック版に慣れている身としては、やはり少し違和感がある。オーケストレーションにちょっと疑問符がつく。しかし演奏自体は立派だし、素晴らしいと思う。
 人によってはこちらの方が好きという方もいるだろう。

(BRILLIANT)

★★

クルト・ザンデルリンク/ベルリン交響楽団

23'09,13'04,04'02,11'14,21'48 [1979年]

クック版。
職人肌らしく、ところどころ「ほう」と思わせる部分がある。

(Schallpratten)

★★

クルト・ザンデルリンク/ニューヨーク・フィルハーモニック

23'55,13'03,04'00,10'57,22'02 [1984年1月]

クック版。ライブ録音。
 録音はよくない。しかし、すばらしい。噛めば噛むほど味が出る「あたりめ」のような演奏である。

(Rare Moth)

★★★

ジェイムズ・レヴァイン/フィラデルフィア管弦楽団

24'39,11'57,04'18,12'41,28'32 [1978年/80年]

クック版。

(RCA SONY)

★★

ヘスス・ロペス=コボス/シンシナティ交響楽団

22'01,12'13,03'53,10'54,23'53 [2000年]

レモ・マゼッティ・ジュニア版。
 バルシャイ版ほどではないが、かなり派手目の味付け。しかし、嫌味はなく、悪くない。低弦部に重きを置いている印象。クック版に比べ、全体的に低音を強化している。特に最終楽章は顕著である。
 シンシナティ響も悪くはないが、ロペス・コボスにはもっといいオケを振ってほしい。

(TELARC)

★★

リカルド・シャイー/ベルリン放送交響楽団

25'55,11'53,04'43,11'32,25'11 [1986年]

クック版。
 オケが文句なしに上手い。1楽章ラスト近くのトゥッティがパイプオルガンの轟音のように聴こえるほど、スケール感において他の演奏を圧倒する。しかし、威圧するような響きではなく、余韻はあくまでしみじみとしている。

(DECCA)

★★★

ロバート・オルソン/ポーランド国立放送交響楽団

24'52,11'15,03'52,11'54,25'11 [2000年]

ジョー・ホイーラー版。
 ホイーラー版は、クック版より少し厚く派手なオーケストレーションを採用しているのが特徴。
 4~5楽章の太鼓の音の間隔が短く、印象的。その後はきわめて情感豊かで、かつポリフォニック。クック版より優れている部分もあり、愛聴盤となりうる実力がある。オルソンの手堅さ、オケの上手さもあり、素晴らしい内容。

(NAXOS)

★★

ミヒャエル・ギーレン/バーデン=バーデン・フライブルク 南西ドイツ放送交響楽団

24'46,11'53,04'10,12'54,23'20 [2005年]

クック版。
ギーレンの手腕が遺憾なく発揮されている。

(hänssler)

★★★

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

22'54,11'08,04'04,11'03,21'57 [1992年]

クック版。
演奏の精度はまさに完璧。素晴らしい演奏である。第一に推したい。

(DENON)

★★★

エリアフ・インバル/ケルン放送交響楽団

22'31,11'52,04'13,11'27,23'27 [2003年5月3日]

クック版。
 フルートソロの旋律は哀愁の極み。この旋律は後に合奏で回帰してくるが、このあたりまでくると聴くのがつらいほどである。
 4楽章の終わりからアタッカで5楽章の頭に入る「太鼓」の音がこの曲の一つの要なのだが、この点に関してもパーフェクト。多くの人に聴いてほしい演奏なのだが、なにぶん海賊盤であり一般的に入手が難しいのが惜しまれる。

(En Larmes)

★★★

サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団

24'52,11'15,03'52,11'54,25'11 [1992年]

クック版。
 ラトルはマラ10がとにかく上手い。バーミンガム響も手馴れたもの。
 アナログ録音だが、音つぶれもなくとても聴きやすい。放送録音か。

(Pandora's Box)

★★

サイモン・ラトル/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

25:11,11:24,3:54,12:06,24:47 [1999年9月24,25日]

クック版。なかなか悪くない。ボーンマス響との演奏では頻繁にテンポを動かしていたラトルだが、このベルリンフィルとの演奏では、ごく自然なテンポ設定を心がけているようだ。
 フルートにはエマニュエル=パユが加わっている。5楽章のフルートソロはパユだと思うが、気負いのない淡々としたものである。

(EMI)

★★

ダニエル・ハーディング/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

25:50,11:08,4:01,11:59,25:02 [2007年10月]

(DG)

★★★

デイヴィッド・ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団

25:37,13:24,4:03,13:42,21:47 [2010年2月1~3日]

カーペンター版。

(RCA)