ヘルベルト・ケーゲル/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
[1985年]
[hitoderan's opinion]
ケーゲル&ドレスデン・フィルハーモニーによる交響曲全集のうちの1枚です。
全体に渋い。特にテノールのソロや合唱は個性的な渋さがあり、これだけでも聞く価値は十分にあると思います。それでいて、1音1音に込められた「気合い」を感じます。1985年の録音なので、音質も良好。演奏・録音共に高い完成度で、この演奏者の交響曲全集(5枚組)が2000円ちょっとで買えてしまうというのは若干不当な値付けとすら言っていいでしょう。
白眉は2楽章。2楽章の揃いっぷりはイッセルシュテット&ウィーン・フィルに引けを取りません。気合いも入りまくってます。3楽章はちょっと流麗さに欠けるところがあるかもしれませんが、十分堪能することができるものです。
4楽章はかなり個性的な「第九」に分類されると思います。基本的に骨太でありながら、大合唱のところ(543小節目)で急激にテンポを落とすという荒業をやっています。これは凄い。一瞬何が起きたか分かりませんでした。「ああ、遅いんだ・・・」と理解するのに数秒かかるといった按配です。確かに前後部分とのバランスは悪いですが、そこだけ聞くと十分な説得力を感じます。極めて重く、荘厳な音。まったく曲想は違いますが、ブラームス1番の冒頭のような感じを受けました。
このような遅い合唱は、一般的な、「開放された」意味を含んだいわゆる普通の「歓喜」とは違ったものを私に感じさせます。1980年代後半の東独が、歓喜などとは遠いものだったこととの相関性を疑うのは、穿ちすぎでしょうか。いろいろと深い演奏です。
[Delta]
★★★★(全体に完成度は高い)
ハンス・シュミット=イッセルシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
[1965年]
[hitoderan's opinion]
一聴して仰天、史上最高の第九ではないかと思います(少なくともバーンスタインと双璧)。私は、その録音の少なさ故、イッセルシュテットについてあまり知りませんでした。今となっては、これまで知らなかったことを心の底から後悔しています。本当に凄い指揮者です。この録音はウィーンフィルとのベートーヴェン全集(以下ベト全と呼ぶ)の中の1枚。ディスクユニオンでカビだらけのが300円だったので、買ってみた次第です。
まず、全楽章を通して全く乱れが無いことに驚かされます。特に、2楽章に通底する例のリズム(”タン・タタン”)は、普通ズレる(ないしは微妙に揃わず輪郭がボケる)ものなのですが、このCDではズレがないのです。私の聞いた限りではありますが、こんなに揃っている演奏は他にありません。よほど指揮法に長けていたのでしょうか・・・?映像があれば是非見てみたいと思わせるほどです。また、音の新鮮さについても群を抜いていると思います。特に弦楽器は、一人一人が心の底から指揮者の音楽に共感しているような感じを受けます。「ひとつになる」というのはこういうことなのか・・・。良好な録音技術と相俟って、とても60年代の演奏とは思えません。
また、乱れがない=アゴーギグに欠ける、というのではもちろんありません。バーンスタインの演奏に比べれば確かに冷静な感じはしますが、そのクールさは寧ろ無駄な贅肉が無いように聞こえてくるから、不思議なものです。ただ、3楽章はちょっと早いので好みが分かれるかもしれません(私はもう少し遅いほうが好きです)。
この指揮者の演奏を他にも聴いてみたい、と思わせる指揮者はなかなかいないものですが、この人は正にそれに当てはまります。ベト全はもちろん、これから他のCDも買っていこうっと。大推薦。(何と新品でも1000円!)
[ユニバーサル]